語彙集

吉本隆明・語彙集

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項目一覧

ID	項目	よみ	項目関連
1	対称	たいしょう	遠隔対称性１６．６２．６５
2	錯合	さくごう	２７．３６
3	措定	そてい
4	表象	ひょうしょう
5	表出	ひょうしゅつ
6	外挿	がいそう
7	階段	かいだん
8	像	ぞう
9	表現	ひょうげん
10	わたしたち	わたしたち	わたし
11	立場	たちば
12	文学の価値	ぶんがくのかち
13	位相	いそう
14	…・にすぎない	すぎない
15	即自的	そくじてき
16	対称	たいしょう
17	中間的な状態	ちゅうかんてきなじょうたい
18	擬定	ぎてい
19	無矛盾性	むむじゅん
20	不関的	ふかんてき	不関６１
21	錯合	さくごう
22	蓋然性	がいぜんせい
23	錯合構造	さくごうこうぞう
24	定立	ていりつ
25	悟性	ごせい
26	構造的位相	こうぞうてきいそう
27	錯合	さくごう
28	アモルフ	あもるふ	無定形な
29	位相的な構造	いそうてきなこうぞう
30	外延	がいえん
31	臨界的	りんかいてき
32	対自性	たいじせい
33	<　>	パーレン
34	記憶	きおく	３５
35	記憶	きおく
36	錯合	さくごう
37	立場	たちば	左翼性について
38	いいかえれば	いいかえれば
39	時間意識の根源	じかんいしきのこんげん	言語表現の<時間>性、<空間>性
40	自己抽象づけの意識	じこちゅうしょうづけ	自己関係づけの意識
41	反作用	はんさよう
42	相互規定性	そうごきていせい
43	疎外	そがい	表象
44	現実	げんじつ
45	自己抽象づけの意識	じこちゅうしょうづけ	自己関係づけの意識
46	道徳の発生	どうとくのはっせい	倫理
47	言語表現の<時間>性、<空間>性	げんごひょうげんのじかんくうかん	時間性の根源
48	歴史	れきし
49	関係意識	かんけいいしき
50	理念	りねん	歴史
51	歴史	れきし	理念
52	死	し
53	権力	けんりょく
54	格率	かくりつ
55	横超する視線	おうちょうするしせん
56	機序	きじょ
57	同定	どうてい	世界視線
58	世界視線	せかいしせん	同定
59	歴史の無意識	れきしのむいしき	歴史の自然
60	逆立	さかだち
61	不関	ふかん	不関的
62	対称	たいしょう
63	対照的	たいしょうてき
64	表象	ひょうしょう
65	対称	たいしょう
66	話体	わたい
67	喩	ゆ	全体的な喩
68	個体	こたい	「言葉の吉本隆明①」項目ID「３６６」「論理・抽象と経験的イメージ」の①
69	濃度 (二つの濃度)	のうど	29位相的な構造(数学の概念)

２００１．９月　データーベース形式からＷｅｂ形式へ変換

　※ 吉本さんの独特の語彙について

　８．少しすっきりしたこと ―吉本さんの言葉の癖　(2016．3)　(『吉本さんのおくりもの』所収)

　以前、「参考資料―吉本さんの『ほんとうの考え・うその考え』のこと」(「消費を控える活動の記録・その後 2 (２０１５．６～１０)」)の「わたしの註」の末尾で、吉本さんの「対称」という言葉の癖のようなものについて触れたことがある。そんなに重要な問題とは思わなかったけれど、ずいぶん長く気になっていたことである。

　最近になって、「短歌味体Ⅳ―吉本さんのおくりもの」を書き進めている関係で、遠い昔に買って若い頃読んだ『吉本隆明全著作集２初期詩篇Ⅰ』(勁草書房昭和46年)を何十年ぶりかで開いて見ていたら、巻末の「解題」(川上春雄)にそのことがちゃんと書き留めてあった。後振り返れば吉本さんの著作の数は膨大で、雑誌に載ったり、本として出版されるものを次第に追っかけて読むようになっていった。傍線が引いてあるから、遠い昔一度は読んだはずのその「解題」のことはわたしの記憶のどこにもなかった。

　用字仮名づかいについては、この解題でふれておかねばならないことは、著者の用語、仮名づかい、あるいは修辞の上で甚だ特色に富むことである。ついては、この企画の第一回配本がこの第二巻『初期詩篇Ⅰ』となる関係から、第一巻の刊行を待たずに、ここに一括して用字用語の大概を記しておく。

　且てたれもがそうとはおもはなかつた不思儀な対称が視られるでせう。

　右の文でたとえば、著者の意識的な好みなり、無意識的な誤謬なり、その混在なりの一端がみられる。しかも、そう(「そう」に傍線)はあるときはさう(「さう」に傍線)となり、対称は、ひとつの文章のなかにおいてさえ、対象、対照を併用していることもあるから一貫した用法ではない。これを校正係から[嘗て]あるいは[かつて]と訂し、[不思議][対象]と訂することの申出があれば、著者はただちにこれを諾するであろうということは、このようなことに固執しない人柄からみて、およそ明らかである。文学的な記録を意識的に行為するようになった米沢在住時代以降、昭和四十三年(一九六八)の現在にいたるまで、依然として、

　(且て)(たれ)もが(そう)とは(おもは)なかつた(不思儀)な(対称)が(視)られるで(せう)。(引用者註．カッコの部分は、傍線あり。)

　というような筆記法によっている。もちろん手紙の文面でもおなじである。

　しかしながら、かつて「不思儀」を「不思議」と書きかえしなかった編集者校正者は存在しないのであったが、この著作集全般の校訂に際しては、あえて原型をのこして、著者の作風、感性を保存しようとつとめた。慣例、適切、常識、精確というような点では、あるいは一般的用字法に折合わなくても、著者独特の語法に拠って、原作にたちかえることを旨とした。
　(『吉本隆明全著作集２初期詩篇Ⅰ』「解題」P410-P413)

　そういうことだったのか、と少しすっきりした気分になった。しかし、まだ不明のこともある。そのひとつに電車の中の席取り競争について触れた文章がある。その一度読んだ文章を何度か全著作集で捜したけど、見つからなかった。家族の行楽帰りだったか、もし家族の者がひどくくたびれ果てていたら、自分は席取り競争に加わるかもしれないけど、原則的には席取り競争には加わらないという、生活世界での吉本さんの倫理を語った文章だという記憶がある。